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パラレルしか書いてません。口調・呼称が怪しいのは書き手の理解力不足です。ディランディが右。お相手はいろいろ(の予定)
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「どうかしたのか?」

刹那はエレベーターホールの前で右往左往する隣人に訪ねた。隣人は刹那が帰ってきたことに
ホッとして、奥の部屋の方を指差した。

「ディランディさんのお宅から喧嘩する声が聞こえるのよ」
「喧嘩?ライルがか?」
「大きい声はひとつなの、でも他の声もするから…」

隣人は、これ以上続くようなら警察に連絡しようと考えているらしい。
暴漢ならそれでもいいが、聞こえてくる内容はどうも叱っている親と叱られている子供のようにしか
聞こえない。しかも、怒られているのはライルのようで…

「怒っている人物の声はライルより若いな」

いつの間にか背後にはグラハムが立っていて、なれなれしくも刹那の肩に手を置いていた。
刹那はそれをいつものように払いのける。

「いつからいた」
「先ほどだ。ご婦人、ここはこのグラハム・エーカーに任せていただきたい」
「(…不安だ)」

隣人が不安を覚え、刹那を見ると刹那は頷いて、グラハムの肩をつかんだ。

「俺も行く」
「少年、喧嘩には慣れているか?」
「俺がガンダムだ」
「それは頼もしい」

一瞬安心しかけた隣人であったが、また一瞬にして不安になってしまった。

***

「仕方ありません、穏便にすめばいいと思っていたんですが…」
『な、何する気だよ』

ため息を吐くティエリアにライルは一歩後ろに下がる。完全に傍観を決め込んでいるリジェネは、
カタギリ用に置いてあったドーナツを口にして顔をしかめていた。口に合わなかったらしい。

「力づくでも連れ帰ります」
『なんで、ほっといてくれないんだ、俺たちはこのままでいい』
「僕は貴方達の教育担当だ。ほっておけるはずがない」

そう言いつつティエリアはライルを浴槽に突き飛ばす。下にいたニールがぐえっとつぶれた蛙のような
うめき声を上げたが、眉を片方あげたくらいでさほど気にはしていないようだった。

「ティエリア、誰か来たみたいだよ」
「“警察”とやらか、…早めに終わらせる」
『それは!』

ティエリアが懐から取り出したのは何の変哲もないガラス瓶だった。見た目は香水瓶のようにも
見えるが、中に入っているのは透き通った緑色の何か光るものだった。

「それはライルの…」
「えぇ、ちゃんと交渉して手に入れましたから、心配は無用です」
『やめ、ティエリア!』

ライルが浴槽から飛び出して、ティエリアの手の中のものを奪おうとするのと、グラハム、刹那が浴室に
飛び込んでくるのはほぼ同時で、ティエリアは舌打ちしつつも、奪われる前にその瓶を壁のタイルに
叩きつけた。ガラスは砕けたが、四散せずに中身と溶け合ってライルを取り囲み、ライルが厭々と
首を振るも、それは薄く空いた唇から吸い込まれて消えた。

「なんだ…今の光は…」
「刹那…?…うぁ…」
「ライル!?」

ぐっと苦しそうに身をよじったライルはティエリアにしがみつきながらもその体制を保とうとするが、
ずるりと、崩れ落ちる。視線の先にいる刹那とグラハムの驚いた顔にライルは悲しくなって、
あふれる涙をこらえることができなくなった。ぽろぽろこぼれる涙は真珠の粒になってコロコロと
転がっていく。そんなライルをニールが引き寄せてよしよしと頭をなでた。ライルはニールにしがみついて
さらにぼろぼろと泣く。

「ティ、ティエリアのばかぁ…」
「馬鹿でも結構。さぁ帰りますよ、リジェネはニールを」
「わかったよ」

リジェネも懐から、もうひとつ小瓶を出すと、それを割ろうとするが、いきなり手をつかまれ手の中のものを奪われた。

「お前たちはライルに何をした」
「何を…って見てわかんいかな?家出少年…いや中年?を自宅に連れ帰ろうとしてるところさ」
「家出?ライル、君は家出をしてきたのかね?」

そう普通に聞かれて、ライルはきょとんと首をかしげた。グラハムはグラハムで何故ライルが首を傾げるのか
わからないらしくこちらもきょとんとする。一応察したらしいニールがライルの代わりにグラハムに聞いた。

「気持ち悪く…ないのか?」
「気持ち悪い?姫たちの何が気持ち悪いというのだ、美しいではないか」
「や、カタギリが人間は自分とは違う生き物を気持ち悪いって感じるって言っててさ」
「む、カタギリは姫の正体を知っていたということか!」

カタギリめと呟くグラハムにライルはびっくりしすぎて涙が止まってしまっていた。
そんな中、リジェネから瓶を奪った刹那がライルの元まで来てしゃがみこんだ。

「刹那は…気持ち悪くないか…俺、こんなんで…ホントは人間じゃなくて…」
「いや、驚いたが気持ち悪くはない」
「本当か?」
「あぁ」

刹那がほほ笑んでそれにホッとしたのか、ライルはまたボロボロと泣き出してしまった。
それにおろおろする刹那を見てニールはほほ笑み、グラハムはそんなニールの髪をなで、ティエリアとリジェネを見た。
二人は(主にティエリアが)くしゃりと髪をかきまわし、苦々しいといった表情をする。

「グラハム、刹那君勝手に入ってきちゃ…って、あれ?なんか人口密度高い…」

静かになった浴室にカタギリの気の抜けた声が響いた。

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刹那の事故から三週間が経った。ライルはすっかり元道理のようで、でもたまに刹那を
見ては少しさびしそうな表情をしている。理由を聞いても答えてはくれないので、
刹那はライルが自ら教えてくれることを待つことにした。
一方グラハムは、たまに最上階の温室に侵入しては、シーツにくるまったディランディ
兄弟と談笑している。何故シーツを持ち込むのだろうと疑問には思っているようだが、
許可もなく剥ぐのは紳士的ではないと思っているらしく、あまり気にしていないようだ。

「ほっとけばいいじゃないか」
「貴様は何もわかっていない」
「って言ってもね、僕たちにだって責任はあると思うけど?」

そう言いあいながら二人の少年が歩いている。紫の髪に赤い瞳とおよそ人間離れした
容姿に通行人はつい眼で彼らを追った。

「ここか」
「彼らからの情報だとね、信用ないけど」
「行くぞ」

彼らはひとつのマンションの前につくとそのままエントランスへと消えた。

***

「あ、ここじゃない?」
「そのようだな」

少年たちは、ひとつの部屋の前で立ち止まった。そこは、11階の角から二つ目の部屋で、割と眺めもいい。
角部屋の住人と、少年たちの立っている部屋の隣の住人は外出中らしくいないようだった。
しかし、それは二人にとっては好都合だ。ドアノブをまわすと、鍵が空いているのか、
すんなりと中に侵入することができた。どうせすぐ出るのだしと、ドアストッパーで少しだけ隙間を空けておく。

「開けっぱなしだと!?不用心な」
「まぁ、そんなことに頓着するような子たちじゃないし」

一人は憤慨し、もう一人は興味ないといった感じに返事を返す。
そっと音をたてないように住人のいるであろう場所へと移動する。

「見つけましたよ!ニール、ライル!」

がらりとあいたドアの先ではライルとニールが眼をまん丸にして突如現れた侵入者の顔を凝視していた。

「ティエリア…?リジェネもか…?」

どうやら少年たちの名前はティエリアとリジェネというらしい。名前を呼ばれたうち、ティエリアの方が、
浴室に足を踏み入れ、二人に近づく。

「…お二人ともご健勝のようで」
「あ、あのなティエ、」
「言いたいことは色々ありますが、まずは…」

びしっとティエリアは二人に指を突き付けて叫んだ。

「開けっぱなしとは何事ですか!?暴漢にでも侵入されたらどうするんですか」
「いや、侵入してる僕らが言えることじゃないと思うけどね」
『カタギリが来るって言ってたから開けといたんだよ』

カタギリはこの部屋の鍵自体はライルに預けてしまっているので、開けておかないと中には入れないし、
最初のころは玄関先までは迎えに行っていたライルも、いちいち着替えるのが面倒になってしまったのか、
今では来るという連絡をあった日は、鍵を開けっぱなしにしておくことが多くなっていた。

「カタギリ…スメラギ・李・ノリエガの言っていた協力者ですか」
「スメラギのところまで行ったのか!」
「勿論です。ウェーダ以外で足を得るには魔女に頼るか王のトライデントを使うしかない」
「まぁ、最初はしらみ潰しだったけどね」
「リジェネ」
「はいはい」

壁にもたれかかっているリジェネはひらひらと手をふって降参の意を表し、ティエリアは二人に向き直る。

「両殿下」

ティエリアの声に二人はびくりと背筋を伸ばした。どうやら怒られるのは常習犯のようだ。

「人間ごっこは終わりです。国に帰っていただきます」
『ちょ、嫌だ。どうせ国に帰ったら兄さんと引き離すつもりなんだろ!』

ライルが浴槽からでてティエリアの前に立つ。ティエリアは自分より幾分高いライルを見上げ、
睨みつけた。

「みっともない…声をなくした歌姫など」
「ティエリア!」
「そうでしょう、貴方がたは国一番の歌い手であると同時に国の継承者だ」
『……そうだけど…でも、』
「でもじゃない!」

ティエリアの叫ぶ声は全開の浴室のドアから洩れ、リジェネが開けていた玄関のドアの外にまで聞こえ、
マンション中に反響していた。

イルカのショーも何時もよりイルカが高く跳んだりだとかして観客は大いに盛り上がっていた。
ライルも楽しそうに笑っていて、三人はホッとしていた。
唯一ひやっとしたのはイルカがライルを見つけて嬉しいとでも言うように水槽から客席に向かって
飛び出してきそうになった時だ。まぁ、そう解釈したのはカタギリだけだったのだが。
実際それは正解だったりする。

「実に素晴らしかった」
『イルカもグラハムに褒められて喜んでるよ』
「それはありがたい」

イルカに触れるためにゴムボートに乗った4人は飼育員の先導の元、集まってきたイルカの
口のあたりをなでる。きゅーきゅーと鳴くイルカは飼育員の合図もなしに芸を見せライルを
笑わせようとしているようだった。

「この子たちがこんなに機嫌がいい日も珍しいんですよ」

飼育員がそう言い、カタギリは今日は特別だろうと心の中で突っ込む。
イルカの鳴き声にライルがまるで歌うように口を開いた。すると突如ゴムボートの空気が抜け出す。

「うぉ!?」
「え、ちょ」
「つかまれ!」
『?』

身を乗り出していたライルが一番に水槽の中に落ちかけそれを何とか刹那が支えようとするが、
沈んでいくゴムボートに乗せても意味はあまりない。
するとイルカのうち何頭かが、ゴムボートを陸に寄せるように支えて泳ぎ出した。
が、うち一頭が、ライルの服の袖をつかんでボートから落っことした。

「ライル!」
「カタギリ、これを」
「ちょ、グラハム勝手に潜ったら怒られるって!刹那君も」

飛び込んでライルの元へ向かおうとする二人を引きとめ、飼育員にライルのことを頼む。
飼育員はシュノーケルをつけ、ライルの沈んだ底の方へもぐる。
そこで飼育員が目撃したのは、何事もなかったようにイルカと戯れているライルで、
しかもそれは下の水槽を見ていた一般客にも目撃されていた。
慌てて、飼育員がライルに身ぶり手ぶりで上に上がるように言うと、ライルは水槽の外の人
に気づいたのか、とんと軽く床を蹴って、飼育員と上に上がっていった。

「大丈夫か!?」
『平気だけど?』
「それならいいが…」
「危険なことは控えたまえ、姫にも心配をかけてしまうだろう」
『なんで?兄さん別に怒んないと思うけどなぁ…』

水槽の外に引っ張り出されながら、ライルはそう言い、刹那とグラハムにバスタオルでもみくちゃにされながら、
きゅーきゅーとなくイルカに笑いかけていた。
この時のライルはすっかり忘れていたのである。このイルカの水槽が一部外海と繋がっていることに。
自分たちが、海から遠ざかり、わざわざ内陸寄りに居を構えた理由を。

翌日、何が悲しくて男だらけでデートスポットに来ているんだという集団は、勿論目立ちまくっていた。
もちろん一番目立っていたのはグラハムだったが、美形の集団が男ばっかりでこんな場所にいるという
のも目立つ原因になっていた。

「水族館とは懐かしいな」
「ここは、僕がクジョウと初めて出会った場所なんだよ」

刹那とグラハムは誰もそんな馴れ初め聞いてないという顔をしたが、ライルだけはきょとんと首をかしげていた。

「はぐれるといけない、ライル」
『ん』

刹那は何時ものようにライルの手を引くと、てくてくと歩き出す。グラハムはその後ろをカタギリと歩きながら、
何時もこうなのかと聞いた。カタギリが大体はと答えると、ほうと意味ありげな視線を向けるが、
二人は気づいていなかった。

『刹那!うみうし!』
「何故そこからなんだ…」

水族館の入り口近くにあるふれあいコーナーにいる磯の生き物のところに真っ先に向かったライルに
刹那は思わず突っ込んだ。普通もっと別のサメだとかカメとかから見るだろうと。
今日は平日のためか子供の姿はほとんどなく、確かにそこが一番空いている水槽ではあったのだが。
しかし、いい大人がずっとそこにへばりついているのも人目に悪いので、刹那はそうそうにその水槽から
ライルをつれて移動する。

「ライル、カメだ」
『んー?』

ライルが、そちらを向けば、水槽越しにカメが手を振っている。珍しい仕草だと他の客は喜びながら
ホームビデオや写真に収めていた。

【殿下だ!】
【まぁ、殿下。いつこちらに?】
『ちょっと前からな』

ライルが、ぺたりと水槽に手をつけるとカメがギリギリまで泳いできてくるくるとダンスを始めた。
それを筆頭にエイや熱帯魚達がまるで竜宮城の歓迎の舞のように踊り出す。
これには館内を案内していた従業員も驚いて固まっていた。

「ライルは随分魚に懐かれているのだな」
「だね、これは凄いな」
「そうだな」

三人は、笑うライルを見守りつつ、魚たちのダンスを観賞することにしたらしい。
ライルが移動すると大抵の魚も移動するので、居場所はすぐにわかるので、刹那ももう手は離していた。

【殿下ぁー、今日はニール殿下はご一緒じゃないんですか?】
【そういえば、珍しいですね、殿下が御兄弟といらっしゃらないのも】
『ニールはちょっとお留守番なんだ』
【それは、残念ですね】
『うん…』

ライルはニールも一緒に来れればどんなにいいだろうとへこみつつも、彼らが元いたあたりに泳いで行くのを
見送った。ここで一旦水槽が途切れ、別の水槽になるため、これ以上は彼らは進めないのだ。
この水族館にいる魚たちはどうやら大抵がライルとニールのことを知っているようだった。
別の水槽に移動すれば、そこには小さめの熱帯魚がイソギンチャクとともに展示されていて、やはりライルの
姿をみて嬉しそうに寄ってくる。

【殿下、見てください!春に生まれた私の子供なんです。ほら、殿下にご挨拶して】
【こっ、こんにちわ!】
『こんにちわ』

ライルがほほ笑みかければ、まるで恥ずかしがるようにクマノミの子供は父親の後ろに隠れてしまった。

「まるで、ロイヤルスマイルのようだ」
「(なんで、こんなにいい勘してるかなぁ…)」
「もう、ライルまで展示物みたいになっているな」

ライルの行く場所行く場所魚が踊ったりなんかしらのリアクションを取るため、客はライルの後ろから写真を
撮ったりしている。寧ろライルの写真ばっかり撮っているものもいたが、それは流石に刹那とカタギリが
注意をしに行った。しかも、刹那のはどう考えても脅しだった。
しばらく一人で進んでいたライルだったが、何を思ったのかカタギリの前で手をパタパタ動かして何かを
訴えている。

「ん、あぁ、ここは水族館の一部が外海と繋がってるからじゃないのかい?」

どうやら、自分を知っている魚が多いと言っていたらしい。それを理解できたのは正体を知っている
カタギリだけで、刹那とグラハムはどういう意味なのかと首をかしげた。
二人がカタギリに聞いてもはぐらかされるのはわかっているし、きっとライルはわからないという
ことが理解できないだろうから、二人は聞くのをあきらめる。
そこに、館内放送がかかり、まもなくイルカショーが始まると告げた。いい席を取ろうと館内にいる客は
みな館外の特設水槽に移動していく。

「ライル、行くか?」
『?』
「イルカがいるそうだ」
「いや、ね、グラハムそうじゃなくて」
「イルカショーだろう?何が違うというのだ」

今一歩状況が把握できてないライルの手を引いて三人は外に出た。出たら出たで一番最初に眼に入る
位地にあるペンギンの水槽が騒がしくなり、まるでそれだけで簡易なショーみたいになる。
そんなペンギンに手を振るライルに、やっぱり三十路前に見えないと刹那は思いつつ
これまた三十路を過ぎたのに大人げないグラハムにライルを任せてカタギリの横に並んだ。

「少しは元気になったようだな」
「そうだね、あとひと押しかな」
「まだ何かあるのか」
「一応ショーが終わった後イルカに触れるように言ってあるよ」

そうかと刹那は呟き、すでに席についている二人の元へと向かった。

刹那は病院の医師から薬を受け取りながらはぁ、と小さくため息を吐いた。
結局退院までライルは一度も見舞には来ず、日替わりでカタギリとグラハムがきて入院とは別の精神疲労をおってしまった。
カタギリはライルの様子を教えてくれるだけなので、まだいいが、グラハムはなんだかただ騒ぎに来ているだけのようだった。
一日だけ大人しかったが。1週間で退院できるはずか2週間もかかってしまったのは、
ほぼグラハムのせいで刹那の気分が悪くなり、検査できる状況じゃなくなってしまったからだった。

「刹那君」
「カタギリ…」
「迎えに来たよ、家まで送るから」
「すまない」

カタギリの車の助手席に乗り込み、動き出すと同時に窓の外の風景を見た。
事故を起こした業者は、今警察と一緒に事件の起きた原因を究明しているとニュースが伝えていた。
マンホールのふたは本気で謎のままらしいのだが。都内で突如起きたすべてのマンホールのふたが
ずれる事件は怪奇現象の一種のように語られている。何故ならば、しばらくして勝手に戻っていったからだ。
一部始終を監視カメラが目撃していたため、先日から数回おこっている「そらからおたまじゃくし」事件
と同様の扱いを受けているようだった。

「ライルはまだ引きこもったままなのか?」
「うん…まぁ」

窓の方を向いたまま刹那がカタギリに話しかけると、カタギリは歯切れの悪い返事をした。
刹那が入院してライルが外に出たのは二度だけで、殆ど浴室にいる兄のもとを離れはしなかった。
(まぁ、刹那もグラハムもニールが一緒に住んでいるというのは知らないし、普段から彼ら兄弟が
浴室に引きこもっていることも知らない)
その二度も、最上階の水槽にいたのと、コンビニに出かけてグラハムの家を訪ねてきただけだ。
出かけるというほどではなく、そもそも出社していない。
カタギリの元に最近かかってきた電話で、一番多かったのはオフィス街のアイドルを最近見ないのだけど
という、かなり私的な電話だった。しかも大抵がお偉いさんだったもんだから、大丈夫かこの国
と一抹の不安を覚えたのだった。

「そうか…」
「なんか、かなり落ち込んでたよ」
「俺の怪我はあいつのせいじゃない」
「そうなんだけどね、(彼は人としての感情はまだ幼いから)」

カタギリは思ったことは口に出さず、刹那にドアの脇にあるクリアファイルを取るようにいった。

「…これは…水族館か?」
「うん、うちの福利厚生施設の一つなんだけど、社員限定でイルカと触れ合えるんだよ」
「それで?」
「ライル君もずっと引きこもってるし、いい加減引っ張り出さないといけないかなって思ってね」
「まるで、引きこもりに対するリハビリだな」
「あははは」

刹那の退院祝いだと言えば、ライルもいやだとは言えないだろうとニールが言っていたから
カタギリは強引にでもことを進めた。ニールもライルの元気がないことを気に病んで、
堂々巡りのようになっていたからなおさらだった。

「明日の9時にマンションのエントランスの植木の前で待っててくれるかな」
「了解した」
「……(こっちもだいぶ不器用だなぁ…)」

カタギリは苦笑しながらついでにグラハムを拾うために、右に曲がった。
曲がった先に待っていたグラハムの格好に頭痛を覚えたのは何も刹那とカタギリだけではなかった。
季節外れの浮かれ野郎に頭痛を覚える人もいれば、物珍しそうに写メを撮る人間までいる。
グラハムの格好は春先には無縁のはずの…

「(なんで、アロハシャツなんだ…)」

だった。(しかも麦わら帽子にサンダル、浮き輪オプション付き)

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