[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
刹那の事故から三週間が経った。ライルはすっかり元道理のようで、でもたまに刹那を
見ては少しさびしそうな表情をしている。理由を聞いても答えてはくれないので、
刹那はライルが自ら教えてくれることを待つことにした。
一方グラハムは、たまに最上階の温室に侵入しては、シーツにくるまったディランディ
兄弟と談笑している。何故シーツを持ち込むのだろうと疑問には思っているようだが、
許可もなく剥ぐのは紳士的ではないと思っているらしく、あまり気にしていないようだ。
「ほっとけばいいじゃないか」
「貴様は何もわかっていない」
「って言ってもね、僕たちにだって責任はあると思うけど?」
そう言いあいながら二人の少年が歩いている。紫の髪に赤い瞳とおよそ人間離れした
容姿に通行人はつい眼で彼らを追った。
「ここか」
「彼らからの情報だとね、信用ないけど」
「行くぞ」
彼らはひとつのマンションの前につくとそのままエントランスへと消えた。
***
「あ、ここじゃない?」
「そのようだな」
少年たちは、ひとつの部屋の前で立ち止まった。そこは、11階の角から二つ目の部屋で、割と眺めもいい。
角部屋の住人と、少年たちの立っている部屋の隣の住人は外出中らしくいないようだった。
しかし、それは二人にとっては好都合だ。ドアノブをまわすと、鍵が空いているのか、
すんなりと中に侵入することができた。どうせすぐ出るのだしと、ドアストッパーで少しだけ隙間を空けておく。
「開けっぱなしだと!?不用心な」
「まぁ、そんなことに頓着するような子たちじゃないし」
一人は憤慨し、もう一人は興味ないといった感じに返事を返す。
そっと音をたてないように住人のいるであろう場所へと移動する。
「見つけましたよ!ニール、ライル!」
がらりとあいたドアの先ではライルとニールが眼をまん丸にして突如現れた侵入者の顔を凝視していた。
「ティエリア…?リジェネもか…?」
どうやら少年たちの名前はティエリアとリジェネというらしい。名前を呼ばれたうち、ティエリアの方が、
浴室に足を踏み入れ、二人に近づく。
「…お二人ともご健勝のようで」
「あ、あのなティエ、」
「言いたいことは色々ありますが、まずは…」
びしっとティエリアは二人に指を突き付けて叫んだ。
「開けっぱなしとは何事ですか!?暴漢にでも侵入されたらどうするんですか」
「いや、侵入してる僕らが言えることじゃないと思うけどね」
『カタギリが来るって言ってたから開けといたんだよ』
カタギリはこの部屋の鍵自体はライルに預けてしまっているので、開けておかないと中には入れないし、
最初のころは玄関先までは迎えに行っていたライルも、いちいち着替えるのが面倒になってしまったのか、
今では来るという連絡をあった日は、鍵を開けっぱなしにしておくことが多くなっていた。
「カタギリ…スメラギ・李・ノリエガの言っていた協力者ですか」
「スメラギのところまで行ったのか!」
「勿論です。ウェーダ以外で足を得るには魔女に頼るか王のトライデントを使うしかない」
「まぁ、最初はしらみ潰しだったけどね」
「リジェネ」
「はいはい」
壁にもたれかかっているリジェネはひらひらと手をふって降参の意を表し、ティエリアは二人に向き直る。
「両殿下」
ティエリアの声に二人はびくりと背筋を伸ばした。どうやら怒られるのは常習犯のようだ。
「人間ごっこは終わりです。国に帰っていただきます」
『ちょ、嫌だ。どうせ国に帰ったら兄さんと引き離すつもりなんだろ!』
ライルが浴槽からでてティエリアの前に立つ。ティエリアは自分より幾分高いライルを見上げ、
睨みつけた。
「みっともない…声をなくした歌姫など」
「ティエリア!」
「そうでしょう、貴方がたは国一番の歌い手であると同時に国の継承者だ」
『……そうだけど…でも、』
「でもじゃない!」
ティエリアの叫ぶ声は全開の浴室のドアから洩れ、リジェネが開けていた玄関のドアの外にまで聞こえ、
マンション中に反響していた。