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「それじゃぁ、僕はここで」
ライルはマンションの前まで送ってくれたカタギリに手を振りつつ、エレベータへと向かった。
正直言うと病院にいるときは生きた心地がしなかったとライルはため息を吐く。
人魚の細胞と人間の細胞が違うことくらいは知っていた。
今の世の中、人魚伝説が信じられていないということは、カタギリから聞いていたが、
それでも人は人と違うものを排除する生き物だからと忠告された。
だから、嘘をついて入院だけは避けたのだ。流石に薬は出されたが、これくらいなら
数日かからずに後かたもなく治るだろう。人魚は人間とは違うから。
『ばれたら、刹那も俺のこと嫌いになるのかな…』
鍵穴に鍵をさし、回す。ドアを引けば、いつものように兄の歌声が聞こえてきた。
最近は少し抑えて歌っているのか、その分ライルが帰ってきても歌っている。
ライルは一旦部屋で着替えてから、ダイニングに向かい、ラップでぐるぐると包帯の上を巻いた。
病人と言えばお見舞い品だろうと途中まで乗り合わせていたグラハムに渡された
ケーキを持って兄のもとに向かう。(グラハムはまだこれから仕事があるらしい)
『兄さん…』
「ん、おかえりライル…って、その腕どうした」
『怪我した』
「おいおい、大丈夫か?」
『平気、俺よりも刹那の方が重傷だったし』
しゅんとしたままのライルをニールは手招きし、大人しくやってきたところで捕まえて頭をなでる。
しばらくなでていると、ライルの眼からぽろぽろと涙がこぼれてきていた。
「ライル」
『俺、刹那に我儘言いすぎだよな…』
「なんで、そう思うんだ?」
『いつも気をつかわせてる。俺が魚食べられないから、なるべく眼の前で食べないようにしてるみたいだし…』
「お隣さん魚好きだって言ってたもんな…」
ニールはライルをなでながら、もしかしたらライルは隣の住人に恋しているのかななんて考えてしまう。
いつまでも一人占めをしておきたいこの双子の弟は、陸に上がるために自分以上の苦行を強いられているはずだ。
本来、ニールよりも歌を歌うのが好きだったのはライルで、でも、二人で逃げるためにライルは声を失った。
本気で逃げたかったのなら別に声を失うのはニールでもよかったのに、ライルは一人で決めて、
いつの間にかスメラギのところに薬をもらいに行っていた。
「お前さんはホントにお隣さんが好きなんだなぁ」
『…でも、俺は兄さん以上に好きになれる人なんていないよ』
「そうか」
恋心に気づいていないのか、本気でそうなのか今のライルの状況ではニールには区別がつかない。
もしライルが、おった傷のせいで隣人のことを気にしていこんな状態になっているならこんな傷など
ない方がいい。ニールは強く唇を噛んで傷をつけるとそのままライルに口づけた。
「ん…」
『にいさん…』
「らいる」
お互いに頭を引き寄せてむさぼるように口づけあった。最初はニールの方が優勢だったが、
最終的に息が上がっていたのもニールの方で、いつの間にかキスの上手くなっていたライルに
ニールは少しさびしいと思ってしまった。
『兄さん、俺ちょっと会社休んでもいいかな…』
「ん?なんでだ?」
『さびしいから、兄さんといたい。ずっと兄さんとこうしていたいよ…』
ニールはライルのそれが自己嫌悪から来るものだと気付いたが、それを指摘することはしなかった。
くったりと自分の上で眠ってしまったライルの髪をなでながら、ニールはカタギリに電話をかけるのであった。