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パラレルしか書いてません。口調・呼称が怪しいのは書き手の理解力不足です。ディランディが右。お相手はいろいろ(の予定)
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グラハムは上の階から聞こえてくる歌声で目を覚ました。
上の階と言えばカタギリが格安でかりている亜熱帯植物のたくさん植えてある温室だ。
(なんで、格安かというと、管理人が管理しきれないものをカタギリが管理しているからだった)
一度だけ入ったときに奥にプールというか、水槽のようなものがあったのを覚えている。
何を飼うのかと問えば、笑ってごまかされ、それっきりだったと思う。

「誰が歌っているのだろうな…」

まるで子守唄のようだと思いつつグラハムは非常階段を使って上に上がる。
普段は空いていないはずなのだが、今日はライルの部屋にカタギリが来ていたらしく、
非常階段は使えるようになっていた。

「不用心な。しかし好都合だ」

ぶつぶつと独り言を言いつつ温室の扉をあける。今はちょうどどの花もつぼみの状態で、
春先でまだ寒い外と比べると温かいと感じる程度だった。
夏だったら暑さでまいっていただろうが。

「…はかわいいなー」

くすくすと歌声の主が笑う。どうやら奥の方にいるらしい。グラハムは足音をたてないように
そっと奥の水槽の方へ近づく。ぱちゃぱちゃと水のはねる音から泳いでいるらしい
と推測したグラハムはギリギリまで近づくと、そっと木の陰からそこを覗き込んだ。
水槽のヘリに座り足をつけて遊んでいたのはライルだった。
グラハムは他に人影を探すが、見当たらない。もしライルの正面にいるのだとしたら、
ライルの陰になって見えないのもうなずけるが。

「家のバスタブよりひろくていいよな」

声はそう告げる。グラハムは気づかないうちに一歩踏み出していた。
ガサという音に気付いたのか、ライルが振り返る。

『グラハムさん?』

そういう風に口が動いて、ライルは立ち上がってグラハムの方まで歩いてきた。
ラフなTシャツにハーフパンツで、水にぬれているらしく、服も髪もしっかりぬれていた。

「先ほどまで、一緒に誰かといなかったかね?」
『俺一人ですよ?』
「ふむ」

グラハムはライルの肩越しに水槽を見るも、誰かがいる気配はない。

「ここには君ひとりで?」

ライルは頷いた。グラハムはうーむと唸って、ライルを見る。ライルは訳が分からないといったように
首をかしげた。

「ということは先ほどまで歌っていたのは君ということになるが…」

そういうグラハムにライルは少し表情をゆがめた。それにあわてたグラハムはわたわたと弁解する。

「いや、失礼した。君を疑っているわけではないのだ」
『そうか?』
「私は音楽業界に身を置くものとしてどうしても気になってしまったのだよ」
『歌が?』
「そうだとも」

グラハムの慌てっぷりが可笑しかったのかライルはくすくすと声を上げずに笑った。
意図的に声を出さないでいるというわけではないらしいと、ライルの喉の動きを見てグラハムは思う。
空気の振動はあり、喉も正常に働いている。なのに音が聞こえないという状況で、
本当は喋れるのだとしたら少しくらい母音の音が口から洩れてもおかしくはないのだ。
ということはライルは嘘をついてはいないのだとグラハムは改めて思った。
では、先ほどの歌はだれが歌っていたのだろうかと疑問が沸き起こる。
そこに関してはライルが嘘をついていないとは限らないからだ。本当は誰かと一緒にいる、
という可能性が捨てきれない。

「グラハム、こんなところにいたのか」
「おぉ、カタギリか。一週間ぶりだな」
「そうだね、で、なんでここにいるのかな?」
「うむ。歌声が聞こえたのでな、上がってきてみればライルがいたのだよ」

グラハムの言葉にカタギリが眉をしかめた。

「仕事熱心なのもいいけど、勝手に入っちゃだめだっていつも言ってるじゃないか」
「失敬」
『や、カタギリ俺怒ってないよ…』
「いやいや、グラハムのは不法侵入って言って立派に犯罪のひとつだから君が気にすることじゃないよ」
「私は我慢弱くてね、つい興味のあるものは追いかけまわしたくなるのだよ」

まったくと言って反省の見られないグラハムの首根っこを捕まえてカタギリはそのままずるずる
引きずって、ライルの前から遠ざかる。パタンとドアのしまる音とざばっと大きな水音がしたのは
ほぼ同時だった。

「はー危なかったぜ」
『そうだね。まさか下まで兄さんの歌が聞こえてるなんて』
「だなー、もしかしたら風呂場で歌ってるのも聞かれてるかもな」
『ふふ、兄さんは歌うまいからね。沈没させた船は数知れず?』
「言うなよー、お前だって加担してるくせに」
『そうでした』

ライルは笑いながら水槽に身を沈める。ニールはライルの手を取って、歌いながら泳ぎ出した。
声は出ないがライルも同じように喉をふるわせる。反省していないのはこちらの兄弟も同様であった。
 

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