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ライル達の部屋を後にしたカタギリは、刹那の部屋のドアチャイムを鳴らした。
ライル曰く、刹那の部屋に遊びに行ったのは午前中から正午にかけての時間帯だったので、
出かけていなければ部屋にいるはずだった。
しかし、きっと出てこられても気まずいんだろうな、とカタギリはため息を吐く。
他人の情事に関して口を突っ込むことは高校生や大学生の猥談とはかなり違う。
「…何か用か」
「あーうん。ライル君のことでちょっと」
ライルの名前を出すと刹那は少しだけ表情を崩した。
「あげてもらってもいい?」
「あぁ、構わない」
刹那はカタギリを部屋に通すと、いつものように戸にチェーンを掛けた。
カタギリは通されたリビングにどことなく青臭いにおいを感じて少しだけ眉をしかめる。
初体験がベットの上じゃないなんてライルは可哀想かもしれない。
たとえ、されたときに行為の意味を知らなくても。
「そこに座ってくれ」
「ありがとう」
向かい合って座ってしばらく、カタギリは口を開かなかった。気まずい空気が部屋を支配して、
先にしびれを切らしたのは刹那の方だった。
「話しは」
「…落ち着いて聞いてくれるとうれしいんだけど」
「落ち着けないことなのか」
人によっては、とカタギリは言い、刹那は少し息をのんだ。
「ライル君ね、性交渉の意味知らないんだ」
「……は?」
「や、だからね、君とした行為が性交渉だって知らなかったんだよ」
刹那は頭が真っ白になってしまった。確かに知らないのではないかというのは、考えたが、
それはライル自身の行動によって刹那の頭の中からは排除されていた。
だから、ことに及んだというのに、眼の前のある意味ライルの保護者である男はそう言いながら
ひきつった苦笑いを浮かべている。
「知らなかった…?」
「そう、僕もついさっきそのこと知ってかなり驚いてしまってね」
刹那はということは、自分は結局光源氏計画を遂行しかけてしまったということだろうかと、うつむいた。
というか、三十路前にもなって性交渉の存在を知らないなんてホントにどこの箱入りだと思う。
普通は小学校の高学年の時に一度、そして中学校・高校と性について学ぶ授業があるはずで、
まったく触れないということはないはずだが、それすらも知らないらしいと聞いた瞬間呆れを通り越して、
何やらうすら寒いものを感じた。
しかし、刹那はふと思い出す。先に仕掛けてきたのはライルの方だった。
「本当に知らなかったのか?」
「そうみたいだけど…何か気になることでもあったのかい?」
「…先にフェラをしてきたのはあいつだ」
その言葉に次に頭が真っ白になるのはカタギリの方だった。一瞬動きが止まって、しかし次の行動は
早かった。ポケットから携帯端末を取り出すと、電話をかける。
「んーどうしたカタギリ」
刹那の知らない声が携帯から響く。何処か反響するような場所でしゃべっているらしく、
携帯から聞こえる声は何処か二重になって聞こえてくる。水の音もするし、
家でなく、プールのような場所のようだった。実際そこはこのマンションの最上階の一角にある
一般人立ち入り禁止のプールだった。屋内ガーデンの奥に位置しているため、知っている人間も少ない。
そもそも、鍵もカタギリしか持っていないのだが。
「ライル君いるかい?」
「いるけど、ライルに用か?」
「そうだね、ライル君に聞いてほしいんだけど、刹那君にフェラチオしたって本当かい?」
臆面もなく携帯で刹那の知らない人間にそんなことを告げるカタギリに刹那はぎょっとしたが、口には出さない。
「フェラチオが何なのかわかんないってさ、俺も知らねぇけど」
「…ほんと、君たち兄弟は箱入りだね…」
「そぉかぁ?」
どうやらカタギリの話し相手はライルの言っていた「兄」だろうと刹那は推測した。
けらけらと笑う電話の向こうの人物はどんな人間なのだろうと思いつつ、電話口でフェラチオの意味を
一生懸命教えるカタギリがなんだか滑稽でなおかつ不憫だった。
ライルの兄ならライルよりも年上だろうから確実に三十路のはずなのにと冷めたお茶をすする。
「はー…クジョウくんの入れ知恵なんだね。っていうことは」
「そうだ…な、俺もスメラギにそう教わってたし…」
兄弟そろってなにやら誤った知識を植えつけられていたらしい。紅茶の存在すら知らせない過保護に
誤った知識を与える人間。おそらく性教育に関しては紅茶の件の人物がかかわっていそうだと、
刹那は思いつつ、周りの人間に恵まれなかったのかと、ため息をついた。
カタギリが電話を切ると刹那の方に向き直る。
「聞いててわかっただろうけど…」
「あぁ、俺も悪かった」
刹那は自制できなかった自分が十分悪いということは自覚していたから素直に告げた。
それを見つつカタギリは苦笑する。
「ライル君から伝言なんだけど、できれば嫌わないで欲しいって」
「それは、こちらのセリフだ」
「本人に後で伝えてあげてくれるかな」
すごく落ち込んでたからとカタギリは言う。刹那はうなづいて、もう一口紅茶をすすった。
そこで、カタギリが思い出したように告げる。
「もしかしたらライル君から聞いてるかも知れないんだけど、さっきの人はライル君の双子のお兄さん」
「双子…似ているのか?」
「一卵性みたいだからね、そっくりだよ」
カタギリのその言葉に、もしライルが話せるのなら声はさっきのようなものなんだろうなと心のうちで思った。